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売上102億、過去最高を叩き出した「世界の山ちゃん」が虎ノ門ヒルズへ進出! 元専業主婦・山本久美社長が貫いた「脱・カリスマ」のチーム経営
■ 大衆居酒屋の枠を飛び越える、虎ノ門の「山」という挑戦
名古屋発の外食企業が熱い。コメダ珈琲店が都心の小型店で駅前の日常を攻めれば、今度は名古屋のもう一つの雄、あの「世界の山ちゃん」が、東京で最も敷居の高いビジネス街・虎ノ門ヒルズの森タワーに名乗りを上げた。
11月17日にオープンする新店の屋号は、単なる山ちゃんではなく、ワンランク上の和食業態「山(やま)」だ。あの黄色い看板や、創業者の顔が描かれた親しみやすいキャラクターは前面に出さず、シックな空間で名古屋コーチンや旬の本格和食、全国から選りすぐった地酒や熟成酒をゆったりと楽しんでもらう店づくりになっている。
もちろん、看板である「幻の手羽先」も味わえるが、ここで狙っているのは仕事帰りのサラリーマンがジョッキ片手に騒ぐいつもの光景ではない。目の肥えたビジネスパーソンのランチや、大切な取引先との会食、カジュアルな接待といった「高単価で上質な時間」の獲得だ。
一見すると、大衆居酒屋にとってアウェーの街への無謀な挑戦のようにも見える。しかし、彼らが発表した2026年8月期の売上高は、過去最高の約102億円。コロナ禍の苦境を完全に跳ね返したこの圧倒的な好調ぶりが、今回の攻めの出店を後ろから力強く支えている。
■ カリスマの急逝。どん底から会社を救った、元専業主婦の覚悟
なぜ、世界の山ちゃんはこれほどまでに強いのか。その原動力を語る上で、代表取締役の山本久美社長(59歳)の歩んできた道を外すことはできない。
時計の針を10年前に戻す。2016年8月、「世界の山ちゃん」を一代で年商75億円の大チェーンへと育て上げた創業者の山本重雄氏が、59歳という若さで突然この世を去った。
社内外に激震が走り、「山ちゃんはもう終わりではないか」という冷ややかな視線が向けられる中、後を継いだのが、それまで家庭を守り続けてきた妻の久美氏だった。
当時の彼女は、会社勤めの経験がない専業主婦。普通なら、重圧に心が折れて会社を誰かに売却してしまってもおかしくない。しかし、彼女には他の経営者にはない、特別な経験があった。
大学卒業後に小学校の教員を務める傍ら、小学生男子のミニバスケットボールクラブの指導者として、チームを実に3度も「全国優勝(日本一)」へと導いた確かなリーダーシップを持っていたのだ。
久美社長は、夫が命を削って残した大切な暖簾と、何より残された社員たちの雇用を守るために立ち上がった。そこで彼女が持ち込んだのが、スポーツの現場で培った「チームを信じる力」を軸にした、会社の根本的な体質改善だったのである。
■ 「俺についてこい」を捨てたとき、100億の扉が開いた
それまでの山ちゃんは、創業者の重雄氏がすべてのメニューを決め、出店を差配する完全な「トップダウンのカリスマ経営」だった。しかし、経営の素人だった久美社長は、就任直後に社員たちの前で正直にこう語ったという。
「私はラーメンも手羽先も作れません。だから、みんなの力を貸してください」。
彼女は、カリスマのワンマン経営を潔く手放し、現場の社員たちが自ら考えて動く「ボトムアップのチーム経営」へと組織の舵を大きく切った。
メニュー開発に社員のアイデアコンテストを取り入れ、女性客やファミリー層も入りやすいデザートや清潔感のある空間づくりを次々と形にしていった。さらに、門外不出だった「手羽先のタレ」を活かした物販やコラボ商品を全国のスーパーに広げ、居酒屋の客席だけに頼らない手堅い収益の柱を一つずつ築いていったのだ。
今回の虎ノ門ヒルズへの「山」の出店も、現場の社員たちが知恵を出し合って育ててきた挑戦の結晶だ。大衆酒場の枠を飛び越え、客単価の高いビジネス街で「新しい山ちゃんの価値」を問う。それは、一人の創業者の直感に頼るのをやめ、現場全員の力を組織として引き出せるようになったエスワイフードだからこそ掴み取った成果である。
■ コーゾーの視点:不器用でも、人を信じる経営が最後には勝つ
これまでに多くの新興外食ベンチャーが「話題と行列」で急拡大し、インフレやコスト高に耐えかねて失速していく姿を見てきた。そんな中、創業45年の老舗でありながら、過去最高の102億円を叩き出した山ちゃんの強さは、外食経営の本質を教えてくれる。
それは、目先の値上げや冷酷なコスト削減に走ることではない。悲しみのどん底からバトンを受け継いだ女性社長が、社員を信じ、現場を信じ、そして「幻の手羽先」という看板商品を信じ抜いて、全員でスクラムを組んで一歩ずつ会社を前に進めてきた結果なのだ。
不器用でも、人を信じる。
虎ノ門ヒルズの洗練された空間で、手羽先を頬張るビジネスパーソンたちの笑顔の後ろには、一介の主婦から日本一のチームの指導者へと歩んできた山本久美社長の、優しく、そして芯の強い「信頼のドラマ」が確かに息づいている。
(佐藤こうぞう)
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